香川県の仁尾町にある父母ヶ浜。
今や日本のウユニ湖と称され、世界中から多くの人が訪れるようになったこの場所も、
私が初めて訪れた20年近く前は昨今のにぎやかさもなく、もっと静かで穏やかな海浜でした。

町内には他にも有名な海水浴場があり、夏になって人が多く来るのはむしろそちらの方。
父母ヶ浜では周辺の地元の人たちが浅瀬で足を浸して涼を取ったり、
近所の子どもたちがカニを追いかけたりするのどかな光景が広がる場所でした。
ただ、美しい燧灘の風景は今と変わらず、天気のいい日には日没間近の夕景を目がけて、
多くのアマチュアカメラマンが防波堤から望遠レンズを伸ばしていました。

実は私がここを訪れていたのは、近くのお店で買った「たこ判」を食べるため。
絶景を見ながら、ふんわり生地にたこやたまごがたっぷり入った仁尾の名物にかじりつくのは至福の時で、
多い時には週末ごとに訪れるほどでした。

ある日、「たこ判」を買い、まだ結婚する前だった夫と防波堤に座って食べていた時のこと。
少し間隔を空けてカメラを構えていたおじさんに、突然声をかけられました。

「なぁなぁ、兄ちゃんと姉ちゃん。ちょっと浜を歩いてくれんか?」

そのおじさんは、口の周りをソースでべたべたにした私たちに、
「人を入れて夕焼けを撮りたいんや」とカメラを指さしました。

その言葉に安請け合いをした私たちでしたが、いざ砂浜を歩いてみると、
「いかんいかん!歩くんが遅い」「ちょっと手ー、つないで」「振り向いたらいかんで」
「もうちょい右!そこでストップー!」など、他のカメラおじさんたちからもオーダーが入る入る…。

やっとのことでOKをもらうと、「ええのん撮れたで」とおじさんニヤリ。
「できたら送ったるわな」と住所を教えて別れた後、名前を聞き忘れたことを後悔しましたが、
それから約2年の時を経て、現像された紙焼きの写真が送られてきました。

それが最初の写真です。

経年劣化で色味もかなり変わってしまいましたが、
初めて見た時には、「遠くに見える伊吹島に光が降り注ぎ、まるで神様が降りてくるよう!」と
感激したことを覚えています。

裏にはおじさんのサインが入っていて、もしかしたら有名なカメラマンだったのでは…?と
恐れ多いので調べられずにいますが、そんな体験もあり、今も父母ヶ浜は私にとって思い出深い聖地なのです。

(IKUNAS編集 T)